ちょとばかし前の話になっちゃうんですが、1月1日早々に映画『サイド・バイ・サイド』を観に行ってきました。ご存知の人も多いかと思いますが、簡単に説明すると、デジタル化によって昨年以降映画やCMのフィルムをとりまく環境が劇的に変化してます。もちろんKodakの経営問題も大きく関係しています。まさにこのフィルムとデジタルの移行期にキアヌ・リーブスが製作したのがこのドキュメンタリ。キアヌが映画関係者にひたすらインタビューするといったもの。
映画『サイド・バイ・サイド』
http://www.uplink.co.jp/sidebyside/
映画『サイド・バイ・サイド』
http://www.uplink.co.jp/sidebyside/
インタビューでは割と赤裸裸な感情論みたいなものもあるんで「フィルムの暖かみ」とか「デジタルは不当に貶められている」という発言もあり、これが討論形式だと水掛け論になっちゃうんだけど個別のインタビュー形式なので個々の意見がきっちり聞ける。
この映画を通してみるとややフィルムが不利な感じはします。ちょっと疑問だったのが明らかにフィルム派と思しき数人の監督、撮影監督が入っていないこと。分かりやすいところではスピルバーグ。デジタル推進のジョージ・ルーカスに対して、やっぱりここはフィルム存続のために職人の育成すらしているという噂のスピルバーグのインタビューがないのはちょっと寂しいかと思うんですが。
観ている時はインタビューの内容に引き込まれてたものの、帰り道ちょっと考えてみると、インタビューを受けた監督の中にはデジタル化による恩恵によって仕事の機会を得ている人も少なくないんじゃないかと思います。もちろん本人が望んでデジタル化を推進しているという側面もあるんでしょうが、嫌な言い方をしてしまえば「デジタルによる予算の上でなら企画が通してもらえる」ような作品というのも当然あるでしょう。フィルムの良さ、デジタルの良さというのは諸々含めた映画産業全体での変化なんで、そういう監督がデジタルを推進するのは至極当然なことだと思うんですが、ちょうど同時期に日本公開された「プロメテウス」と「ダークナイトライジング」の冒頭の空撮シーンは、風景としては圧倒的に前者の方がすごいんですが、映像としては後者のどこまでも細密な風景の描写にやられたという感じ。クリストファー・ノーランの映像表現はやっぱフィルムの力とそれを引き出す監督や撮影監督ウォーリー・フィスターの技術によって発揮されているじゃないかなと思います。
個人的には上映はデジタルでもいいんですけど、撮影はまだフィルムの方がいいかなと思います。もちろんきちんとスキャンされる(具体的にはARRI Scanとか)こと前提ですけど。これはウォーリー・フィスター(DP)の言うところの「映像の質が劣る手段がフィルムを脅かしている現状を残念に思う」に通じるものがあるんですが、まだ現状ではデジタルのセンサーはフィルムを超えていないと思います。今後はREDが予定しているDragonセンサーやPanavisionの70mmセンサー、もちろんARRIもAlexaの後継を出すでしょうし、フィルムにとってはかなり分が悪いと言えますけど。
自分にとってもやもやとした危機感があるのは、あのフィルムの表現を失うからなのか、MPEGのフッテージの氾濫にうんざりしているからなのかよくわかんないんですが、そういう疑問にはこれっぽっちも応えてくれないこの作品観て本当によかったと思います。
そういえば雑誌『映画秘宝』2013年2月号に見開きでキアヌのインタビューが載っていて、実はインタビューのかなりの尺が未使用とのこと。
映画秘宝オフィシャルサイト
http://www.eigahiho.jp/
すごいグダグダでもいいから全インタビュー観たい...Blu-rayでエクステンデッドエディション出してくれないかなぁ。ウォルター・マーチとか一瞬すぎて訳わかんなかったし。関係ないけど、久しぶりに映画秘宝買ったんですが、ちょっと前の映画秘宝はがんばって「町山的」であろうとしすぎて空回りしてた印象があったんですけど、最近はちょっと肩の力が抜けてきたかなと思います。
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