最近ゾンビネタばっかでスミマセン。映画のトレーラーが公開された「World War Z」ですが、なんかタイトル以外は原作使ってないんじゃないと思える感じで...ただのゾンビパニックものになっちゃってて、個人的には愉快ではないわけです。もちろん映画自体はゾンビもののとして楽しめると思いますし、ゾンビが波のように襲ってくる様は圧巻なのでそれはそれで楽しみなのですが、原作はゾンビ作品としては最凶とも思える出来映えだっただけ残念。私としては原作がお薦めなのでちょっと記事にしてみました。
昨年末の猛烈に忙しいときに移動中やレンダリング待ちの時間で読んだんだけど、あっという間に読み終えて、その後2、3回読んでます。あまりに面白かったので紹介でも書こうと思ったものの、書いたつもりになって書いてませんでした。
まずこの本は、World War Zが収束した10年後に主人公によって書かれたレポートという形になっています。(戦争によって、それまでの文明は大きく損なわれているし、国家や政府の在り方もそれ以前とは変わっているのですが)主人公は世界各地を回り、生き残った人たちにインタビューしてそれを政府にレポートとして提出するという職業の人です。
しかし、政府は統計的な数字などを重視しており、このレポートは各個人の話に重点をおいているという「理由」で却下されてしまい、それを主人公が公開(出版)したという形になっています。
主人公がどうやって危機を乗り越えたかとか、主人公の家族はどうなったとか、そういう主観的な物語はありません。とにかくき残った人たちの証言によって、その時世界各地で何が起こったのかが淡々と語られます。
証言者たちも、一般市民や軍人、政府高官(当時)、医者、科学者など多岐に渡り、国籍や居住地も様々。その一人一人が体験したことや知っていることの範囲でしかありません。あるいは事実を隠したり、自分の信じる事実にあった証言をしようとする人もいます。全体を俯瞰で見渡すような描写はなく、またそこで示される正義もありません。ゾンビがなぜ現れたとかそういう説明もほとんどありません。
ゾンビ発生当初まだアフリカ狂犬病などと呼ばれていたころ(個人的にはこの辺が一番怖かったんですが)、その場所の気候や宗教、政治体制などによってとられた対策は異なります。断片的な情報や、信じがたいような(ゾンビってだけで十分信じがたいわけですが、そういう意味じゃなくて、そこの政府のとった行動とか)証言などから、おぼろげに全体像が浮かび上がり、それでいて核心には触れない感じがなんとも怖い。何度か登場する人もいるし、話の中に出てくる共通のキーワードもあって、一度読んだあとに各エピソードを個別に読んでみると話の内容が繋がったり...そういう楽しみ方もできます。
本作の著者がターケルの「よい戦争」の手法を用いたという旨が書かれているが、ランズマンの「SHOAH」なんかもこういう手法で各個人の体験によって事実の輪郭を描きだしてる。実際にこの原作を映像化するとなるとドキュメンタリ映画の「SHOAH」になっちゃうんだろうけど。まぁ「SHOAH」と比べちゃうのは、扱ってるテーマからしてもちょっと不躾な感じがしないでもないのですが...ただ、事実が見え隠れすることに対して、読者の好奇心によって読み進められるという感覚はまった同じです。
映画の方が完全にゾンビパニックで主人公が飛び回って人々を助けるというプロットが公開されているので、この原作が映画化されるという意味では絶望的なんだけど(そういう意味でもこの原作は映画のネタバレにはならないのでお薦めです)、願わくばテレビシリーズでドキュメンタリっぽく作った映像作品が見てみたいです。
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