ヒストリエの7巻

November 28, 2011
ちょっとこのブログの趣旨から外れますが、マンガのことを書きます。私はあまりマンガを読まないのですが、唯一楽しみにしてるのが岩明 均の「ヒストリエ」です。

月刊誌連載で休載も多いので、単行本の発行ペースが遅いのですが、最新第7巻がついに出ましたので、ちょっとヒストリエについて書いてみます。以下ネタバレとネタバレ的予想あり。歴史的な事実も含めて知らないでおきたい人は読まないほうがいいかもしれません。

まず主人公のエウメネスですが、ディアドコイ戦争で有名です。ディアドコイ戦争は要はアレクサンドロス3世の後継争いなんですが、そこで一軍を率いて戦ったのがエウメネスです。で、このエウメネスは出自などの記録がなくて謎が多いひとなんで、作者もそこに視点をおいて、神話化すらしているこの時代を現代的な視点で描くということにしたんではないでしょうか。で、存分に想像の余地のある主人公をスキタイ出身にしてみたり、少年時代に奴隷にされてみたりしたわけで、その辺の伏線が徐々に回収されつつ、マケドニアの書記官として頭角を表してきているのが最新の7巻あたりだったりします。

私としては古代ギリシアや古代ローマものが大好きなので、もうマケドニアと言えば重装歩兵のファランクスで、早くそれが見たいと思ってるわけですが(ちょっと出てきましたけど)、やっぱり気になるのは既に史実として語られているフィリッポスやアレキサンドロスの扱いです。

まずアレキサンドロスですが、ちょっと精神的に病んでますね。映画「アレキサンダー大王」でもちょっと病んだ感じになってましたけど、実際に激情にかられて友人である将軍を処刑しちゃったり、自分の馬の死を悲しんだ勢いで街を作っちゃったりしてます。父であるフィリッポス2世は史実ではこの後不幸な運命が待ち受けてますが(エウリュディケやアッタロスも)、私の予想ではフィリッポスは死にません。というかエウメネスを殺すのはフィリッポスだと思います。

エウメネスは史実ではアンティゴノス1世に負け、捕らえられて殺されるのですが、アンティゴノス1世はエウメネスの古い友人であり、ライバルであったとされています。古い友人と言われているのですがまだ「ヒストリエ」には登場していない人物です。

そしてフィリッポスがエウメネスと出会った時に使っていた偽名が「アンティゴノス」です。調べてみるとアンティゴノスとフィリッポスは生年が同じ。しかも二人とも隻眼であったとのこと、さらにアンティゴノス1世は「フィリッポス(マケドニア王ではない)なる人物の子」だそうです。フィリッポス2世とアインティゴノス1世を同一人物として描くということが作者の狙いだと思います。きっと暗殺を逃れて別人のマケドニアの将軍として生き残るのに手を貸すのがエウメネスで、更に将来フィリッポスと戦ってみたいという気持ちが強くなりディアドコイ戦争で敵味方になるのでは...その伏線がマケドニア将棋って感じじゃないですかね?

おそらくこの時代のことが好きな人でちょっと調べれば、この両者の共通点はすぐに気づくと思うので、「ヒストリエ」という作品は、このゴールに向かって史実として知られている事柄とフィクションを作者がどう織り交ぜていくのかを楽しむ作品だと思います。

この時代の映画とかマンガとかは「古代ギリシア人の戦争」っていう本を一緒に読むと面白いです。古文書などから当時の陣形などを解説してくれる本なんですけど。マケドニア式ファランクスのサリッサの無敵っぷりがすごいです。