ビビビの貧乏時代 いつもお腹をすかせてた!

May 23, 2011
最近、水木しげる作品が文庫でじゃんじゃん出版されてて、Amazonで買い物する度についつい貸本時代の戦記物とか一緒に買わされ...否、買っちゃうんですが... ちょっと変わったところで面白かったのが「ビビビの貧乏時代 いつもお腹をすかせてた! 」。これとても面白い!!! いわゆる妖怪ものでも戦記ものでもない、貧乏時代の水木作品なわけで、映画やドラマにもなった「ゲゲゲの女房」とも違う...っていうかNHKの連ドラじゃとてもじゃないけど出せないような暴力や性や社会に関するネタばかり。そもそも漫画家があんなにさわやかな貧乏生活してるわけないか...。当然どちらもフィクション前提だろうけど、「ゲゲゲ...」の対極を行く感じの作品です。



単なる懐古録とか「こんなに苦労したんだ」っていう苦労自慢じゃない感じなので、説教臭くもなく、アシスタントとして働いていた人が不遇な死に方をしても「まるで虫けらが死んだように誰もかえりみるものもいなかった...」とか書いちゃうあたりはさすがですね。
経済成長する日本で、それでもインフレや倒産、社会の大きな変化などで人々の生活が苦しい時代であり、紙芝居や貸本が衰退していき娯楽産業が大きくシフトしていく時代の中で、取り残されちゃう人やあがく人の姿にもう昔話とは思えないほど親近感が。

昔はおおらかだったとかそういうことじゃなくて、やっぱり人が道を見失えばあっという間に落ちぶれたり人に忘れられたり死んじゃったりってのは現在と変わらないですし、かなり無茶していながらも今の著者の成功があるのは、周囲に流されずに個人の尊厳を持っていたってことかな... そんなことはこれっぽっちも書いてありませんがね。

本作品に限った話ではないのですが、水木作品ってそれほど分厚いものでなくても、なぜか読むのに時間がかかるんですよね。なんか読み終えたときの充実感とか考えるとかなりのコストパフォーマンス。水木ファンならずともお勧め。